火のうつわを両手に持ち、ゆったりと座って目を閉じましょう。 うつわの手触り、重さ、温度を両手に感じ、深い呼吸を行います。 うつわを持つ手をゆっくりと円を描くように揺らしながら、 巫女の目でうつわの中を覗き込んでください。 うつわの中には、何が入っているでしょう。

燃えかす、小石、砂、埃。 リボンの切れ端、糸屑、土塊。 貝殻、枯葉、誰かの毛束。

うつわの中に入っていたのは、もういらなくなったあなたの心の結ぼれです。 あなたのものも、あなたではない誰かのものも入っているかもしれません。 怒り、恨み、妬み、嫉み。 細々とした、もう忘れたはずの古いわだかまりが、巫女の目に見えるかたちで、うつわの中に現れます。 それが何かは、判じなくて構いません。

それら全てを見つめたら、ふっと一息、うつわに息を吹きかけます。 巫女の息はみなもとの、母からわけた火を放ち、うつわの中にともります。 ちりぢりと音を立て燃える火は、時が経てば、いつしかすらりと消えるでしょう。 そうしたら、またうつわを覗き込みます。 もうなにもない、空っぽのうつわの底が、きらりと輝いているでしょうか。

うつわが空になったなら、けものに雨を降らせてもらいましょう。 うつわを持つ手を円を描くようにしてゆすり、雨の雫を受け、洗い流しましょう。 うつわから溢れる水は地に染み渡り、みなもとの、母の元へと還ります。

うつわが滑らかにうまれきよまったと感じたら、最後に深い呼吸をしたのち目を開きましょう。