すなたまししむらゆかりのひめひこは、今ここにあなたをあらしめる要。 三組のひめひこの結び目の作る絡まりが、まさにあなた、だということ。 そのどれか一つが欠けても、あなたはここにいなかった。
ししむらのひめひこがむすばれうまれたこの肉は、野生のうちに百千の記憶を眠らせて、くゆりを纏いそこにある。 ここはけものの棲家。 けものは火の巫女のつがい、水の精、言葉を持たぬ獰猛な幼心の現し身そのもの。
ししむらひめひこの根ざすのは、すなのひめひこのゆにわ。 ここは巫女の座る場所。 上下左右、四方八方、あまた理のただなかに、地霊の囁き、草木のさざめき、海山のめぐみ尊しと、火灯し歌い、語るもの。
巫女が耳をそばだて聞くは、にるやかなやのひめひこの声。 ねのもとははとその御子の、いつつせぢらの囁きを、巫女の耳に届ける御祖。 人らの知恵とひらめきの、紡ぐ語りはむすびあい、にるやかなやの依代となる。
せぢはひめひこのむすびに生まれる。 ゆかりのひめひこのむすびにより在るあなたは、即ちせぢの証そのもの。 それゆえに、ひめひこのむすびがゆるめば、たちどころにせぢは弱まる。 せぢが弱まるとき、あなたは荒らぎ、強まれば和らぐ。 せぢみちるとき、肉の体とくゆりは、雨を吸う土のように潤い豊か。 祖先を尊び、地霊を畏れ、先人の叡智を敬うことを忘れないこと。 人を、土地を、出来事を、ことあるごとにことほぐこと。 うつわを常々ゆすぎ磨き、母より分けた火を絶やさぬこと。 豊かなせぢが満ち満ちたとき、溢れた雫をにるやかなやのひめひこに、祈りと共に捧げること。
にるやひめとは、この世にわたしを在らしめる、どのひめひこより先にあった、あの場所のこと母のこと。かなやひことは、その尖り。私を溢した父のこと。 なつかしさは限りなく、焦がれる気持ちは果てしない。 にるやかなやのひめひこは、百の声に千の顔、万の色にあまたの語りをたまさかにのせ、たったひとつの眼差しの奇しき恵みで祈りを運ぶ。 近くて遠い、巫女の親神、守神。
もしもまじなうことあらば、せぢなき時は避けること。うつわみがきはねんごろに。 滴るほどのせぢをのせ、くゆりをのばし、なすように。まじないごとには必ずに、にるやかなやをたてること。 せぢの足らぬことあらば、けものに跨り駆けること。けものに怒り恐れあらば、摩り磨き禊ぐこと。 くゆりの先はすなししむらと、にるやかなやにむすぶこと。
ではねのもとははは、たまわりひことは誰なのか。
根のひめひこは原理原則。星の鼓動、宇宙の呼吸、生命の蠢きそのもののこと。
根のひめひこの囁きは、いかなる時もにるやかなやの声色にてとどく。